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あれは10日前の夜。
なんていうんだっけ?
月が真っ二つだった。ケーキみたいに。
へぇ。あの月はそういう名前なのか。
いや、ケーキはあんまり関係ないな、多分。
これから話すことは、俺自身も実はよく分かっていなくってさ、それで……。
誰かに説明すればする程、本当はただの俺の勘違いというか、妄想というか、いや、もっとずっと単純なことなのかも、とか思ってしまうくらいで。
とにかくあやふやなんだ。それが嫌でさ。
やっぱり,俺にはこの話はひどく難しいんだが、すごく大事なことのように思えて、まぁとりあえずお前には話しておこうって思った訳よ。
よし、とにかく話を始めよう。
まずその日の俺は、何もかもを失ったっていうか、つまり最高に最悪な日でクサってた。
行くあてもなくなって、街をうろうろしているうち夜も更けて、山というか坂道に密集した住宅街の中に、ちょっとした森というか、丘のようになっている場所を見つけて……。
近づいてみると、一応ボロいベンチなんかが置いてあって、それは公園だったらしいんだ。
で、そこで俺はある女の子に出会ったんだが、確か、時刻は0時をとうに回っていた。
「近所迷惑だぞ」
とか俺はその女の子に素っ頓狂なことを話しかけたんだ。
いや、それがそうでもないんだ。よくよく考えると。
え?
話しかけたのは……、どうしてだろうな。
でも、いやだってさ、彼女はそこでずっと歌を歌っていて――。
その夜は酒だって相当呑んでいたような気がするから、幻覚って奴かなにかかも知れないが。
少なくとも幽霊やお化けの類ではない。そうであって欲しい、と思ってる。
俺、好奇心旺盛のように見えて、実はオカルトの類はまるでダメなんだよ。
ああ、でも妙にくっきり、会話した気もするぞ?
ううう。よくわからなくなってきた。
なんか、飲み物もらってもいいか?
いや、水でいい。サンキュ。
……とにかく、俺はその時すでに何時間もあてなく歩きまわった後で、疲れて眠くて、たまらなかったんだ。
それで、ちょうどそいつの側にベンチがあったもんだから、一眠りこいてしまった……、らしい。
朝焼けがえらく眩しかった。これは確かに覚えてる。
いや、本当、なんでだろうな。
そこで寝てもいいだろうって思ってしまったんだよ。自然と。
彼女とも二言三言会話した気がするけど、ちょっと思い出せないな。
そうだよな。フツー、初対面で隣で勝手に眠りだしたりはしないよな……。
ま、まぁそれでだ。
起き上がると女の子の姿はなかった。
俺は一人で、丘の上の公園までの道を下りながら、ずっと思い出してた。
違う。歌だよ。
彼女は夜通し歌っていた……、気がするんだ。歌を……。
「運命を……。夜を……、おし、もどす……?」
時間を巻き戻すって意味か? そんなこと出来たら俺だって、昨日っから全部やり直せるのにな……。
とか、そん時はまだのんきに考えてたんだ。
俺はそのうち丘を下り終えて、街中の雑踏の中にいて、すっかり朝の空気で冷え切った手でズボンをまさぐった。
携帯だよ。
アイツにとにかく連絡しなきゃ、って。
あんなことがあった後だけど、不思議とそう思ったんだ。それで。
『もしもし、俺、だけど――』
『昨日は、その、悪かった。俺も大人気なかったと思う』
『でも、責任はちゃんと――』
『……は? だって昨日あんな、いやまだ怒ってるのか? そりゃ当然かも知れんが、でも』
『会ってない? パーティは今日だって? だって今日は』
『今日は……。3月26日? 土曜日……!?』
『いや、そうそう、ちょっと徹夜で寝ぼけてたみたいだ! お前と、ケンカする夢でも見たのかな?』
『……ああ、わかった。ちゃんと遅刻しないで行く! それじゃ』
今日は3月27日、日曜日のはずだ! そう思った。
絶対、アイツの性質の悪い悪戯だと思った。
だが、そんなことをするような相手じゃないことも確かだった。
でも俺は、まだ”通話終了”の4文字を表示しっぱなしにしてる携帯画面を見て焦ったよ。だって――
――”2011/03/26(Sat)”
ここまでで、まだ2回目の10日前の話なんだが……。
……だろ? だから言ったろ?
なんつーか、やっぱり難しい。そうなんだよ。どうにも説明が難しい話なんだ。